行動観察とは
行動観察とは、人々の行動を観察し、その背景にある心理的な要因を探る方法です。行動観察は、心理学の基本的な研究方法であり、臨床心理学や教育心理学などの応用分野でも重要な役割を果たしています。
行動観察には、自然観察、構造化観察、参加観察などの方法があります。自然観察は、被験者が自然な状況で行動する様子を観察する方法です。構造化観察は、あらかじめ設定された観察項目に基づいて観察する方法です。参加観察は、観察者自身が被験者のグループに参加し、その行動を直接観察する方法です。
ユーザーの行動を知る手段の一つにアナリティクスを使ったデータ分析が行われています。しかし、このデータにはユーザーが行った事実のみしか含まれておらず、なぜそのような行動を取ったのか、どのようにその行動を取ったのかがわからない。
行動観察で大切なこと
行動観察には、「観察」「分析」「ソリューション」という三つのステップが存在します。
現場で「観察」を行うことで事実を集めて、得られた事実を分析・解釈することでインサイトを得て、そのインサイトを元にソリューションを考えていきます。
これらのステップを実行する上で、重要な要素を「FIRE」と呼びます。「Fact」を集め、解釈して「Insight」を得て、「Reframe」された新たな発想でソリューションを提供する。このプロセスを行う上で「Knowledge」が必要です。
重要な要素のうちの一つである「Knowledge」は、分析・ソリューションを考える上でとても重要で、さまざまな分野の知見が役に立っている。その分野の代表例を紹介します。
人間工学
人間工学とは、人間の特性や制約を知り、それを設計やデザインに応用する学問です。
エスノグラフィー
エスノグラフィーは、社会学の分野で「フィールドワーク」と呼ばれていた調査手法です。
環境心理学
環境心理学は、物理環境(光、熱、音、混雑など)による人間行動への影響を知るための学問です。
社会心理学
社会心理学は、人間の心理と行動の関係について、他者との関わりから考える学問です。
表情分析
人間には、世界共通の7つの普遍的な表情(怒り、嫌悪、恐れ、幸福感、悲しみ、驚き、軽蔑)があるとされています。
進化心理学
進化心理学は、人間の特質(知覚、認知、感情、行動など)を進化論的な観点、特に適応(自然淘汰、性選択)という観点からとらえる社会科学的な学問です。
行動観察は仮説を生む
行動観察によってわかった事実をもとに分析をしてソリューションを提案することに疑問を感じる人たちがいます。
その多くはn数に問題があると考えている。確かに、行動観察では数人の対象者しか調査しない場合が多い。
アンケートや統計学を用いる場合の千人単位の調査を行うことは困難です。そのことから、たった数人みただけでは、その結果を一般化できないのでは?という疑問が生じているようです。
それに対する回答は、「行動観察は、仮説を生み出すために実施しているものであり、統計的検証をするために行っているものではない」ということです。
n数をしっかり取って検証を行うためには、そもそも仮説がなければ実験が始まりません。過去の文献を研究したり、フィールドでさまざまな事実を観察した上で、仮説を立てることできます。
なぜ、行動観察はできそうでできないのか
行動観察は、「現場に行って観察すればよくて簡単だからすぐにやってみよう!」と感じられがちですが、実は実際にやってみると難しいとわかります。なぜ難しいのか?そこにはいくつかの理由があります。
自分のフレームから出ることが難しい
人間が進化してきた過程で、無駄なエネルギーを使わないようにする動きをしようと頭が働くようになり、「常識で考えれば」「私の勘と経験によると」「以前もこうしたから」というような考えで結論を導けば考えなくて済みます。
しかし、過去の経験によってしまうと、思考パターンは固定化されてしまいます。
とらわれている枠組みから自由になって考えることができれば、「どのようにすればいいか」が見えてくることが多い。
このことからも、リフレームがいかに大事であるかと同時に、人間は無意識に枠組みに囚われてしまうということがわかります。
無意識に枠組みに囚われてしまうという人間の本能は、人間の進化の過程では極めて自然なことです。どんなことでも、すぐにリフレームできてしまうというのは、人間としては不自然な状態だと思います。
他人も自分と同じだという思い込み
人間は「自分がこう考えるのだから、他の人も同じように考えるはずだ」と考えてしまう傾向があり、それを「偽りの合意効果」と呼んでいる。
ある実験で、ある議題に対して、あなたは賛成か反対かを選択させ、その後、「他の人は賛成するか反対するかどう思いますか?」と問うたところ、自身の選択肢と同じ選択肢を選んだ人が多いという結果になりました。
そのことから、人間は、「他人も自分と同じだろう」と考えるバイアスをそもそも持っているということがわかる。
そのため他者を観察していても「私だったらこう思うから、この人もそう思っているんだろうな」と考えがちです。
そうした固定概念だけで人を見ている限り、行動観察での気づきは得られにくく、解釈を誤る可能性があります。
選択的注視が固定している
選択的注視とは、カクテルパーティ効果とも呼ばれていて、注意を払った事柄はしっかり認識できるが、注目していない事柄は無視されるという現象を表します。
このことから、同じ場所に観察に行っても、注意をあちこちに向けるかどうかで、得られる情報が全く違うことが起こってしまいます。
「この観点で見ると、そしてこういう観点から見ると」と常に観点を切り替えることができれば、同じ”場”にいても得られる情報や理解は全く違っています。
確証バイアスから抜け出しにくい
確証バイアスとは、一度、印象が確定してしまうと、なかなかその枠組みから抜け出せなくなる傾向である。
確証バイアスにとらわれてしまうと、新しい気づきを得ることはできない。行動観察ではひたすら考え続けることなのである。
認知的不協和音に耐えられない
それまで思っていたことと相反する情報が入ってくると「認知的不協和」が起きます。
認知的不協和を持ち続けるのは辛いため、矛盾する事柄のどちらかの意見を変えてしまうことで心の平安を取り戻そうとするのが人間です。
かといって、矛盾するどちらかの事柄を切り捨ててしまうと、良いインサイトは生まれない。矛盾が分かっても安易に結論を出さないことが非常に重要です。
基本的帰属錯誤
誰かの行動を解釈するとき、私たちはその行動の原因を、性格など「その人の持っているもの」に求めがちで、状況などのような「その人が置かれている環境」を過小評価しがちです。
その人の持っている資質も重要であるが、管理者がここの資質を変えるためにできることは限られている。その代わりに一番注力するべきなのは、「その人が置かれている環境」をどうするかを考えて、用意することです。
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